twitter短歌2020
5月
「愛しい病」7首
きみはその素直な日々を愛してねさよならぼくの愛しい病
セーブ地点が見当たらなくて後戻りできなくなった雨樋の雨
花になる願ったときには遅すぎてローディング長すぎる午過ぎ
鮨詰めの喫煙所でいつも見る使い捨てては燃えるプリズム
眠りたくないよ一緒に不条理なパズルの欠片を探すだけでも
痛みすら甘さなのだとピンヒール履いて少女は夏へ駆けだす
絵のなかのきれいな模様の風車ふたりのうえに散るアスベスト
6月
「崩れる惑星の先へ」9首
きみと見たドーナツリングの真夜中へ流し込んでいく漂白剤
流れてくプリズムの束を髪に巻く屋上だから話ができた
ファミレスの間違い探しを解くような柔らかな陽を重ねる手と手
ワザップで見つける攻略裏ルート夕焼けの淵をきみと名付ける
ゼロだから歩こうとした理由でも気流はやさしく燃えてくれるね
歯磨きをしても虫歯になるように弱がる月に流れるソナタ
繊細な羽根に残った繊細な傷痕なでる指の雨音
”コンビニで待ってて”とかいう他愛ないやりとりだけが光っていたね
崩れてく星の向こうの永遠がLINEのひかりに笑って消えた
7月
「カードめくりの日々」5首
なにもかも出来損なったわけじゃない不揃いの靴で抱きしめる朝
”好きだよ”と”愛して”だけを目隠しで同じカードをひらいたら勝ち
少女らが呼びたい名前で呼んでいる季節はずれのやさしさの群れ
嫌いだと蓋した世界の向こうから射し込む温度で溶けだしていく
イジワルな風が過ぎ去る真夜中にねむるこころの島に降る虹
10月
「シーラカンスの花嫁」7首
風に散る花を纏った白骨を運びゆくシーラカンスの群れ
前髪を揃えた禁煙外来の色とりどりの希望のガラス
ただちゃんと好きになりたい踊り場で手を取りあった月光に濡れ
爽快な晴天みんないい笑顔電波ソングをかけるトラック
不思議ちゃんだけが知ってる抜け道を歩いた暗い雨雲のなか
水色の列車が通る十字路の向こうのきみを遮るように
感情をひとさじ入れたビン越しにひかりが跳ねる秋は静かに
11月
「TVショーの幕間」5首
節くれたエゴンシーレの指先で真冬の空に描く星座表
飛んできたファックユーサインを数えればキリない姉の有給申請
うつ病と診断された季節ごと光るTVショーの幕間
オレ詐欺の受け子みたいな服装で土曜日母と食べるスガキヤ
明け方のキャスでギターを聴いているひそかな海へ踏み出しながら
12月
「四つ打ちの恋」5首
らしくない薔薇を一差し選びとるきみん家のある通りの花屋
しあわせは決して数では計れなくても切り取るベルマークに祈る夜
灰皿に生活なんかを押し付けて燃える火花の懐かしい色
決められた炊事・洗濯・家事そしてなぜかサビだけ四つ打ちの恋
待っててね夜明けはいずれ訪れる雫を落とす傘やわらかく
◇ ◇ ◇
2020年は意外と短歌が読めていたように思います。目にしてくれた方々、コメントしてくれた方々、お褒めいただいた方々、誠にありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。